武蔵大学 GUIDEBOOK 2026
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人文学部/英語英米文化学科イギリス文学ゼミナール英国の劇作家であるウィリアム・シェイクスピアは、1600年前後のロンドンの劇場を訪れた観客に向けて、多くの戯曲を残しました。今も世界 中で 上 演されているそれらの 作 品 には、現在の政治や社会を連想させる展開が多数登場します。たとえば『リチャード三世』の主人公である□猾な男リチャードが、王の地位に就くために信心深いフリをして市民の前に現れ、支持を得るシーンは、近 年 のドナルド・トランプ がとった行動を思わ せてとてもリアルです。  同様に、今私たちが親しんでいる映像コンテンツやゲームなどにも、シェイクスピアの時代の戯曲や 文学作品を題材とするものがたくさんあります。自 分とは関 係 のない 昔 の 物 語 だと思っていた作品も、今ここにいる私たちのために書かれたものだと思って読んでみると、普段親しんでいるエンタメ作品の背景まで見えてきて、より深く味わうことができるでしょう。「近世イングランドの戯曲を読む」東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻表象文化論修士課程修了。キングス・カレッジ・ロンドン英文学科博士課程修了。武蔵大学人文学部准教授を経て、2023年より現職。専門は英文学、舞台芸術史、シェイクスピア、フェミニズム批評。戯 曲とは、舞 台 上 演 の 設 計 図で す。設 計 図を見て完成した建物を想像するように、私たちは戯曲を読みながら演出や空間の使い方を考えることができます。さらに歴史的背景、その当時のジェンダーや人種、階級といった観点から作品を分析することもできます。物語の面でも、作家が作品をコントロール する小説とは異なり、一人ひとりの登場人物が独立して動き、一つのお芝居のなかにいくつもの声が流れていて、どの登 場 人 物 に着目して読むかで演 出が変わってくるところに面白さがあります。ゼミでは、シェイクスピアなどイギリスやアイルランドの劇作家の戯曲を扱います。舞台映像を見て作品世界への理解を深めてから、その戯曲を英語で読んでいきます。希望者で観劇に行き、実際の舞台に触れる機会も設けています。そのように舞 台を楽しむことを第 一としつつ、「良き市民、良き観客、良き消費者」を育むことを指導方針としています。良き市民とは、政治につ いて自 分で考えて行 動できる人。良き観客とは、コンテンツの芸術的な良し悪しを自分で評価しつつ楽しめる人。良き消費者とは、商品の価格や品質だけでなく労働環境や環境負荷などの生産プロセスを含めて購買を決められる人です。古典作品の背景から政治や 差別について学ぶとともに、演劇界で問題になっているハラスメントなど、自分が見ている芝居がどのような環境で作られているかまで思いを巡らせるきっかけになればと考えています。北村 紗衣 教授 055良き市民、観客、消費者として作品世界に触れるシェイクスピアの時代と今の社会をつなげてみるとゼミの学び 『リチャード三世』の主人公の行動は現代のある国のリーダーに似ている?

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